当たり前のことかもしれないが、フレンチレストランのシステムは手打ち蕎麦屋のしきたりとはずいぶんと異なっていた。例えばこのブラッセリーでは、シェフはオーダーを管理し全体に指示を与える司令塔。ガルド・モンジェはサラダやテリーヌの冷菜担当で、デザート担当のパティシエは温度の低い別室キッチン。他にもチキンなどをローストするロティスールなどがあった。
そして中心になるのがメインコースの両翼をなす魚料理担当のポアソニエと肉料理担当のソーシエ。シェフのいるウィンドウに向け2つのラインから成っていた。特にメインディッシュはできたての熱々を同じタイミングで仕上げるのが鉄則なので、ポアソニエとソーシエはお互いの顔が見られるよう設備がうまく配置されていた。
ここで初めにつくこととなったステーションはポアソニエ。担当はベトナム出身のブーイ。同じアジア人ということもあってかすぐ仲良くなることができた。
「これはソーモン・ポピエット、鮭でクリームを包んである、ここのスペシャリテさ」
手先の早いブーイは店一番の働き者で、一緒に仕事をするととても勉強になった。また話好きでいろいろなことを教えてくれた。
「パリにはベトナム料理店がたくさんあるんだよ、なぜか分かるかい?レフュジー(難民)が多いからなんだ」
と話をする彼も、かつてそのうちのひとりということだった。
ひと月ほど経ったころ新たに移ったのは肉担当ソーシエ。任されていたのはロンというフランス人の若者だった。とにかく彼の冗談好きには困ったもので、ご親切にぼくでも分かるようなジョークも飛ばすため、笑うのと仕事を覚えるので大忙しになった。しかし腕は確かなもので、ロンからはいろいろな料理を教わった。とくに胡椒を効かせたソース・ポワーブルはステーキの脂っこさをヒリリと引き締め、あとから手が出てしまう旨さだった。
ソーシエのとなりにはアルザス料理のステーションがあり、シュークルートやシャルキュトリーの調理をしていた。そこを担当していたのが今回の主役のエチオピア人だった。
つづく
Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
ブログ:www.ameblo.jp/nattoya
メール:nattoya@gmail.com