この記事の初出は2024年11月5日
自公与党の惨敗で、衆議院は過半数を占める政党がない「ハングパーラメント」(宙吊り議会)となった。そのため、自公与党政権は、野党の中から躍進した国民民主の政策を受け入れる「部分連合」で経済を運営させざるを得なくなった。
では、実際、どんな政策が行われるのだろうか? すでにいろいろな観測報道が出ているが、はっきりしているのは国民民主をはじめとする野党の政策はほぼすべてがバラマキだということ。財源も明確ではない。
となると、国債増発は必至となり、超円安、物価高、金利上昇、株価暴落という最悪の事態がやってくるだろう。
自公もバラマキだが野党はそれ以上のバラマキ
「立憲民主党、公明党、日本維新の会とも案件ごとに(協議を)やる。自民党とだけ部分連合するわけではない」
と、国民民主党の玉木雄一郎代表たち幹部は、突然回ってきた役割に有頂天になっている。しかし、どう見ても立民、維新などとは連携するはずがなく、自公に自分たちの政策を高く売り込んで「部分連合」ということになる。
ただし、この「部分連合」という言葉を玉木氏は気に入らず、否定したうえに、「政策ごとの協力、非協力」に拘る姿勢を見せている。ただし、それは、ただの言葉遊びにすぎない。実際は、「自公+国民民主」で政策が決まることになるはずだ。
となると、日本はどうしようもない方向に行くことになる。自民も公明もバラマキ政党だが、国民民主はそれに輪をかけたバラマキ政策しか持っていないからだ。
「手取りを増やす」を打ち出したことで議席数を大幅に増やしたが、どうやってそれを達成するのかの道筋を示していない。
単に、消費税を減税する、社会保険料を引き下げる、生活補助のための補助金を出す、最低賃金を引き上げる、教育を無償化する、などと言っているだけだ。もちろん、立民以外の野党もみな同じだから、どうにもならない。
「103万円の壁」引き上げに効果はあるのか?
現在、自公との協議で実現しそうなのは、玉木代表がもっとも拘っている、所得税の基礎控除などを103万円から178万円に引き上げる所得税減税である。
いわゆる「103万円の壁」を「178万円の壁」にすれば、パートタイムの主婦やアルバイトの学生の収入が増えるというのだ。しかし、ことはそんな単純ではない。そのすぐ先に「106万円」「130万円」という、社会保険の加入義務が生じるというハードルがある。
また、これは減税政策だから、財務省試算で7.6兆円の減収になり、その財源をどうするのかが問題になる。しかし、それは明示されていない。
7.6兆円という数字は単純試算で、減税効果による消費の伸びなどは含まれていない。だから、その分税収が上がるので大丈夫などと言っている。しかし、それは希望的観測であり、そんなことで政策は実行できない。ほかの政策(たとえばほかの歳費をカット、人員削減、ほかの税金のアップなど)とセットでなければ、効果は薄い。
補正および本予算で国民民主のバラマキが上乗せ
「103万円の壁」ばかりが注目されるが、ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の凍結解除、一時的な消費税5%減税なども、国民民主は主張している。いずれもバラマキだが、これらに関しても財源の話は不明瞭だ。
すでに自公両党は経済対策の議論に入り、選挙前の公約通り大型補正予算を組もうとしている。そして、その先には2025年度予算がある。これから年末にかけてはの政治は、これらを中心に動く。
となると、国民民主の存在は重要で、今日までの報道によると「独自の物価高対策などを取りまとめを急ぎ、反映させるよう政府・与党に求める方針」(日経新聞11月3日)という。
となると、どう見てもバラマキの上乗せである。国債を増発しなければまかなえない。日本の放漫財政はさらに拡大することになる。
政治が経済をコントロールできるわけがない
ここで、日本の政治家全員が陥っている「バカ思考」を指摘しておきたい。それは、政治が経済をコントロールできると考えていることだ。しかも、それが社会主義、共産主義であるとは思ってもいないことだ。
「手取りを増やす」など、政治ができるわけがない。賃金は市場で決まる。モノの価格も同じで、それが資本主義市場経済である。政治はその資本主義市場経済を支障なく、効率的に機能させるのが仕事だ。
給料が上がらないので、安倍政権から政治が企業に対して、春闘での賃上げを強要したが、これは政治家のとんだ思い上がりである。これによって、実質賃金はさらに低下した。
たとえば、現在実施されている電気代金の補助金政策なども、価格統制と同じで社会主義政策である。モノの価格を政府が決めたら、企業は新製品を開発する、新しい分野に投資するなどの努力をしなくなり、経済は衰退する。
このような単純なことが日本の政治家はわからず、与野党ともに「日本経済を復活させる」などと大見得を切り、これまでまったく逆のことをやってきた。
石破政権最初の大関門「防衛費増額」問題
話を戻して、国民民主のバラマキ社会主義政策を飲み、さらに自分たちのバラマキも続ける政治を自公が行ったら、いったいどうなるだろうか?
それは、火を見るよりも明らかだ。補正予算は、能登の災害対策が主眼にもかかわらず、物価対策と称する補助金、減税などが加わって拡大し。2025年度の本予算でも、バラマキがさらに拡大する。これまで、なんとか続いてきた日本の資本主義市場経済は崩壊しかねない。
バラマキとともに大問題なのが、岸田政権が先送りした「防衛費増額」の財源問題である。すでに、5年間で段階的に増やし、2027年度は2022年度比で3.7兆円多い8.9兆円にすることが決まっている。つまり、年約3兆円の負担増になるが、財源をどうするかは決まっていない。石破首相は「年内に決めねばならない」と発言したが、今の状況でそれができるだろうか?
もし、増税しなければ捻出できないとして増税したら、国民は猛反発する。それで、結局、国債発行でまかなうとしたら、これはもう放漫財政以外の何物でもない。放漫財政は、インフレと金利上昇を招く。日本を守るために、国民がどんどん貧しくなってしまう。(つづく)
この続きは11月26日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。