津山恵子のニューヨーク・リポートVol.45
インフルエンサーに負けたメディア
兵庫県知事選も類似
兵庫県知事選挙とアメリカの大統領選挙で、インフルエンサーをうまく使った方が勝った。危険なのは、インフルエンサーにはファクトチェックがなく、偽・誤情報が広まることだ。イコール、新聞やテレビなど伝統的メディアの「敗北」ともいえる。いくら「事実」を伝えている、と主張してもインフルエンサーほどの影響力がなくなっていることが選挙結果で浮き彫りになったのではないか。
共和党候補のドナルド・トランプ氏は投開票日の直前、世界最大のポッドキャスター、ジョー・ローガン氏(1860万サブスクライバー)のスタジオでインタビューに応じた。3時間ちかくに及ぶYouTubeのインタビュービデオは、11月22日現在、約5100万回も再生されている。ローガン氏は、トランプ氏を推薦した。トランプ氏の勝利の後、「推薦したことに対して、多くの人から感謝の声を得た」と公言もしている。
一方、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領はローガン氏から声がかかっていたものの、出演を断った。トランプ氏を招いたローガン氏に会うことで、民主党内部からの批判を恐れていたともいう。代わりに、伝統的なコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」に11月2日出演、そっくり女優とわずか90秒のコントを行った。テレビ局側の配慮もあり、出演しただけで選挙に関する政治色はなかった。コント部分だけのYouTubeビデオは11月4日までに960万回再生されたという(ニューズウィークによる)。
5100万回と960万回では、あまりに隔たりが大きすぎる。コントでは3時間のインタビューには勝てない。
一方、新聞で勝ち組とされるニューヨーク・タイムズのデジタル購読者数は1100万人だ。しかし、皆が日々選挙の情報を追っているわけではない。また新聞記事は長く、忙しい現代人にはゆっくり読む暇がない。インフルエンサーによるポッドキャストやYouTubeは、「ながら」族ができる。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターは選挙後、Facebook、YouTube、Instagram、TikTok、X上で2,058人のニュース系インフルエンサーを対象とした調査を発表した。その結果、インフルエンサーの約63%が男性で、30%が女性、残りは性的マイノリティと、ジェンダーギャップが大きいことが分かった。同時にインフルエンサーの27%が右派で、左派は21%、残りのインフルエンサーは政治的立場を明確にはしていないが、割合として右派が多かった。男性が圧倒的に多く、保守派が多いという偏りの影響はあるのではないか。
ジャーナリズムの世界にいて、今回の選挙ほど、伝統的メディアの弱まりを感じたことはなかった。これから、大きな変革が必要とされている。(津山恵子)
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。