この記事の初出は2024年11月12日
トランプはなぜ圧勝したのか? これまで、いくつものの分析、論考が出ているが、どれもしっくりこない。しかし、トランプの最大の支援者であるイーロン・マスクの応援演説動画を改めて見て、納得がいった。
マスクは起業家、企業経営者だけに、徹底して勝つことにこだわり、具体的かつ明確な行動、演説をしている。それは、ビヨンセなどのセレブ応援団を揃えた民主党の戦略を超えていた。今回の大統領選挙の本当の勝者は、マスク自身ではないだろうか。
写真:Elon Musk full speech at Donald Trump rally in Pennsylvania、WFAA(YouTube)
イーロン・マスクの支援によりつかんだ勝利
第47代アメリカ大統領に決まったトランプは、勝利演説で、「アメリカの人々に感謝したい。47代アメリカ大統領に選ばれたことはこの上ない光栄だ」と述べた後、演説後半では、最大の支援者に言及した。
「私たちには新しいスターがいる。それはイーロンだ!」
そうして、ハリケーン「ヘレン」で大きな被害を受けたノースカロライナ州で、ある人物から「スターリンクが必要だ」と言われたという話を披露し、こう付け加えた。
「彼は多くの命を救った。彼は特別な人間であり、超天才だ。私たちは超天才を守らねばならない」
トランプ再選は、どう見てもイーロン・マスクの支援がなければかなわなかった。
まず、マスクはトランプの選挙戦支援に、トランプのスーパーパック「アメリカPAC」に、少なくとも1億1900万ドル(約183億円)を献金した。そうして、最大の激戦州ペンシルベニアに乗り込み、毎日1人の有権者に100万ドルを贈るキャンペーンを始めた。
さらに、トランプに同行して各地で応援演説を行った。その応援演説は類を見ないものだった。
また、もっと時間をさかのぼれば、マスクがツイッターを買収して「X」としたことも、トランプへの援護射撃となった可能性がある。
具体的に投票を呼びかける異例の応援演説
ここで、イーロン・マスクがペンシルベニア州バトラーで行ったトランプ応援演説を見てみたい。「YouTube」にあるので、いまでもその凄さがわかる。
「Elon Musk full speech at Donald Trump rally in Pennsylvania」
https://www.youtube.com/watch?v=SepmVBuJz_Y
これまで、トランプがなぜ勝利したのか? さまざまな分析、論説がなされてきたが、この応援演説の後半を見れば、それらがほとんど的を射ていないのがわかる。
彼はともかく、聴衆に向かって「この州の戦況は最後の500票、1000票で決まる」「ともかく選挙に行ってほしい」「周りにもくり返し呼びかけてほしい」「有権者登録してあるか確認してほしい」としつこく呼びかけている。
そうして、どのように行動すればいいのかを細かく促しているのだ。
応援演説というと、ともかく候補者をほめ上げる。いかに素晴らしい人物か、いかにリーダーにふさわしいかを述べ、「投票すれば未来は明るい」と言うようなことを言うのが定番だ。
しかし、マスクの応援演説は、そんなことはそっちのけで、どうやったらトランプを当選させることができるのか、それだけに絞って、具体的に指示している。
この続きは12月5日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。