村本大輔のニューヨーク劇場
第2回「This is America!」
文/村本大輔
去年の3月からニューヨークに住んでいる僕は、いい時期に来たと思ってる。4年に一度の大統領選の空気を感じることができた。
そして、その投票の前後は僕はたまたまテキサスのコメディークラブにいて、テキサスのコメディアンたちがカマラ・ハリスをジョークにし、ニューヨークでは笑えないような女性をバカにするようなネタで男だらけの観客を沸かし、ニューヨークのコメディアンたちは、トランプをジョークにし、さまざまな有色人種が集まるコメディークラブの観客を沸かしていた。テキサスとニューヨーク、2つのアメリカを感じることができた。
そしてカマラが負けた日の朝、友達のニューヨーカーは「あんな静かなニューヨークは初めてだ。わたしは初めてニューヨークで静かに眠ることができた」と言ってたほど、あのうるさいニューヨークがとても静かに感じた。心臓でも止まったかのように。シカゴに住んでる友達も、オバマが大統領になった時、シカゴの街は空気に色がついたかのように街が元気だったと言っていた。この民主主義最前線のアメリカは、選挙の結果で、街の空気が死んだり生き返ったりする。
トランプが勝った直後、ニューヨークで1番のコメディークラブのコメディアンたちはどんなネタをしてるんだろうかと、Comedy Cellar というコメディークラブに行った。さぞ今回の大統領選をネタにしてるのかと思ったら誰もしていなかった。終わった後、僕たちが飲んでたバーにその時のコメディアンたちがいたので、話を聞いた。「なぜ、ジョークにしなかったの?」と。彼は「まだ傷が深いから、いまはできない。もしかしたら2週間後ぐらいにするかもしれない」と。違う芸人は「オーディエンスの中でも賛否両論が激しい、だからやらなかった」と。
たしかに、投票前のテキサスのバーで友達になったアメリカ人に「どっちを支持する?」って聞いたら、彼は「とてもデリケートだ、なかなか答えにくい質問だよ」っていうから「え!?絶対、カマラじゃないの?」って聞いたら、もごもごと「うー、まー、んー、まあ・・・」と言葉に詰まって「しかし、もし君がトランプ支持者の気持ちを知りたいなら、この街のバーにいるデブのカウボーイハット被ってる白人を見つけて、君がアンチカマラのトランプ支持者を装えば、彼らはトランプの魅力について語ってくれるよ」って冗談まじりに言われた。
その後入ったバーに、嘘みたいにでっかいカウボーイハットを被った大柄の白人が1人で隣でビールを飲んでいた。
「お前どこから来たんだ」と尋ねられたので、これはチャンスだと思って「わたしは日本から来た。アメリカのリベラルのでたらめには付き合ってられないよ!カマラは嘘つきだ!トランプはいいよね」って顔を真っ赤に赤らめながら迫真の演技で、トランプ支持者を演じたら、彼は「待って」と言い「なぜ、君はトランプみたいなクソ野郎が好きなんだ!」と、そしてカマラがいかに素晴らしいかの話をし出した。僕はてっきり、この服装はテキサスの共和党支持者だ、と思い込んでいたので、まさかの返しに驚いた。
彼に話を聞けば、彼はロサンゼルスから観光で来てて、たまたまお土産で買ったカウボーイハットを被ってバーに飲みにきたバリバリのリベラルカマラ支持者だった。「君は、なぜあんなくそ野郎を支持するんだ!!」と怒り始めたので、僕は一気に顔が民主党のように青ざめた。彼の顔は共和党のように真っ赤に変わった。
トランプ当選後のニューヨークのコメディクラブで仲良しのコメディアンが俺に尋ねてきた。「大輔、トランプはたくさんの罪で起訴されてる。そんなクレイジーなやつがどうして選ばれたと思う?」僕は「This is America!」と返した。彼は「そういうことだ」と言った。 僕がアメリカに来ようと思った尊敬するアメリカの伝説のコメディアン、ジョージ・カーリンは言った “When you’re born in this world, you’re given a ticket to the freak show. When you’re born in America, you’re given a front row seat”(この世界に生まれたとき、あなたは奇妙なショーへのチケットを手に入れる。アメリカに生まれたとき、あなたは最前列の席を手に入れる)
つまり、アメリカは特に極端で派手な不条理や矛盾に満ちた社会であり、アメリカではそれを最前列で見れる、ということ。僕はコメディアンとしていい時期にアメリカに来た。
Profile:村本大輔
「アメリカでスタンダップコメディーがしたい」と2024年2月に、単身でニューヨークに来たウーマンラッシュアワー・村本大輔(43)。日本のテレビ界を抜け、アメリカのコメディーシーンに魅力を感じ自分を試すため、毎晩コメディークラブに飛び込みオープンマイクを握る。この連載では、そんな彼がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる、一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフをつづります。
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ドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」
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