イーロン・マスクはやはり天才か!?ビヨンセと比べてわかるトランプを勝たせたカネと応援演説の凄さ(完)

この記事の初出は2024年11月12日

本当に勝ったのはトランプではなくマスク

 民主党は戦略を間違えた。有名人をずらっと並べて、ハリス支持を表明させたが、その先をやらなかった。応援演説では当たり前のように、ハリスをほめさせ、アメリカに新しい時代が来るというような漠然とした期待感を煽っただけだった。
 これに対して、マスクは起業家、企業経営者らしく、徹底的にリアルに戦った。応援演説の違いに、それがはっきり表れている。
 こうしてみると、トランプが勝ったのは間違いないが、本当に勝ったのはイーロン・マスクである。彼は、自分と自分の会社のために勝負師として、本気で戦ったからだ。
 トランプ勝利で、即座にテスラの株は高騰し、彼の資産は一気に28%も増えた。また、トランプは約束どおり、マスクを政府の要職に就任させることを宣言した。これにより、彼の支配企業は連邦政府からの手厚い支援を受けることになった。

なぜ民主党から共和党支持へ転向したのか?

イーロン・マスクは、元からの共和党支持者ではない。これまでの大統領選挙ではすべて民主党候補(ヒラリー、バイデン)に投票してきた。それが今年になって共和党支持に転向し、当初はフロリダ州知事のロン・デサンティスを支持していた。
 共和党支持転向とともに、マスクは、スペースXをカリフォルニア州ホーソーンから、レッドステートのテキサス州南部ボカチカのスターベイスに移転、「X」をサンフランシスコからテキサス州の州都オースティンに移すことを表明した。
 このように、マスクの青から赤への転向には、ビジネス上の理由が大きいが、もう一つ大きな理由がある。
 もともとマスクは、意識が高い系“ウォーク”(Woke)を毛嫌いしてきた。そのため、カリフォルニア州の「ジェンダー・アイデンティティ法(性自認法)」(AB957)が、ギャビン・ニューサム知事の署名によって発効することになると、「堪忍袋の緒が切れた」(This is the final straw.)という声明を発表した。
 “ウォーク”嫌いの背景には、自分の息子がトランスジェンダーで、自身と絶縁状態になったことがある。マスクの息子(現在の名前は女性名でビビアン・ジェンナ・ウィルソン、20歳)は、2022年、カリフォルニア州の裁判所に名前と性別の変更を申請し、父親と一切の関係を断つことを表明している。

あらゆる規制から自由になることが目的

南アフリカ生まれのイーロン・マスクは、アメリカ大統領にはなれない。国籍がアメリカだけではダメで、「アメリカ生まれ」「14年以上居住」「35歳以上」をクリアしなければならない。
 だから、ドイツ生まれのピーター・ティールは、副大統領候補のJDヴァンスを支援し、政治権力を得ようとした。
マスクも同じだ。トランプを使って、自らの理想を実現させたいのだろう。
 その理想とは、あらゆるものから自由な世界。規制なき企業活動だ。テスラによるEVシフト、スペースXによる宇宙開発と火星移住、ニューラリンクによるBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)など、みな国家規模の規制緩和、支援がなければ実現できない。
 イーロン・マスクは稀代のイノベーターである。イノベーションに必要なのは、規制なき自由である。先の応援演説で、マスクは「トランプだけが、Freedom of Speech(フリーダム・オブ・スピーチ:言論の自由)を守る」と述べていた。結局、「自由」(フリーダム)を手に入れたのは、イーロン・マスクだけではないだろうか。 (了)


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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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