共同通信
国境を巡って対立してきた中国とインドが、緊張緩和に向けて動き出した。2024年10月に5年ぶりとなる両国の首脳会談が開かれ、国境問題の解決模索で合意。係争地から両国軍が撤収した。雪解けを図る背景には、日米とインドの結束を弱めたい中国と、中国からの投資を当て込むインドの思惑が透ける。(共同通信中国総局=杉田正史、ニューデリー支局=岩橋拓郎)
▽菓子交換
2024年10月31日、インド北部ラダック地方で、中国軍とインド軍の兵士たちが菓子を交換した。この日はインドでヒンズー教の暦で新年を祝う祭り「ディワリ」。前日までに両国軍は係争地から撤収しており、祝祭に合わせた友好のパフォーマンスだった。
両国軍は2020年、ラダック地方で衝突し双方に死者が出た。関係が急速に悪化したが、両国は外交・軍ルートで接触を図り、2024年10月に係争地でのパトロール方法に関する取り決めで合意。対峙してきた軍の撤収が決まり、偶発的衝突を避けるためパトロール前に現場司令官同士が連絡を取り合うことになった。
▽対抗軸
「早期に安定した発展の軌道に戻るよう推進していく」。2024年10月23日、主要新興国で構成するBRICS首脳会議が開かれたロシア中部カザン。中印両首脳は5年ぶりの会談に臨み、係争地問題を含め両国の関係改善を進める考えで一致した。
中国は注目度の高いBRICS首脳会議の表舞台に合わせ不仲だったインドとの融和を発信し、国際社会に貢献する外交姿勢を演出。新興・途上国「グローバルサウス」に広がる中国への警戒感を緩めながら結束を強め、米主導の国際秩序の対抗軸構築を図った。
さらに日米豪印の協力枠組み「クアッド」など各国と安全保障協力を深めるインドに接近し、中国を念頭とした安保連携を崩す狙いも透ける。
▽小さな一歩
衝突後、インド政府は中国からの投資を政府の事前承認制にして制限をかけた。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」など中国製アプリの使用も禁じ、現在いずれの規制も続く。
ところが、こうした中国排除の姿勢に異を唱えたのはインド経済界だった。外交筋は「経済活性化には中国からの投資が欠かせない」との意見が経済界から政府に寄せられていたと明かす。
双方の思惑で雪解けがわずかに進むが、対立は根深い。インドのジャイシャンカル外相は地元大学生との交流イベントで「ある程度の信頼を再構築するには時間がかかる」と発言。関係正常化への小さな一歩に過ぎないとの考えを示した。