「年収103万円の壁」合意は子ども騙し。バラマキ政治を続ける限り衰退は止まらない!(下)

この記事の初出は2024年11月26日

目玉は「住民税非課税世帯に3万円を給付」

 石破茂が首相になったので、少しは変わると思ったが、とんだ思い違いだった。次の臨時国会の最大の目的は、補正予算の成立である。すでに、その規模は約13兆9000億円とすることが決まっている。
 これだけのカネを使って、関係業界を潤しつつ、目くらましとして国民にバラマキを行う。
 その概要は、物価高対策として住民税非課税世帯に3万円を給付。子育て世帯には子ども1人当たり2万円を加算する。エネルギー価格高騰に対応するため、来年1~3月の電気・ガス代を支援。今年の12月末で終了予定だったガソリン補助金は減額しつつ年明け以降も継続する。
 これは、どこからどう見てもバラマキである。すでに政府は、2023年の経済対策で、物価高対策として住民税非課税世帯に10万円、18歳以下の児童1人当たり5万円の給付を行なっている。これと同じことを、なぜいま行うのか?ほかにやりようがあるのではと、誰もが思う。

政府与党寄りの読売新聞まで厳しく批判

 この補正予算に、いつもなら自民支持、与党よりの論調の読売新聞も「社説」(11月23日)で、厳しく批判した。
 まず、《政策効果を吟味せず、規模ありきで歳出を膨らませたと言わざるを得ない。日本の成長力を高める施策にこそ、資金を重点的に投じるべきだ》と始まり、事細かく批判している。以下、長くなるが引用する。
《コロナ禍の影響も薄れ、景気が緩やかな回復を続ける中、政府自らが昨年6月、経済成長と財政健全化を両立させるために、「歳出構造を平時に戻していく」との方針を決めていたはずだ。
 それにもかかわらず、予算規模が膨らんだのは、石破首相が、先の衆院選の期間中に内容の吟味がないまま、前年度を上回る規模にすると言及したことが大きい。
 その結果、必要な施策を精査して積み上げたものではなく、はじめから規模ありきで、バラマキ型の補正予算案となった。》
《巨額な支出に見合う効果が乏しく、惰性で続けている施策の典型が、住民税の非課税世帯への3万円の給付金だろう。コロナ禍以降、この種の給付金は何度も繰り返され、昨年秋の対策でも7万円の給付金が盛り込まれた。
 住民税の非課税世帯は、65歳以上の世帯が大半を占め、金融資産が多い高齢者にも恩恵が及ぶ。むしろ現役世代への支援を手厚くすべきだとの声も根強い。》
 《電気・ガス代への補助金制度を、来年1月から3月まで再開し、年内を期限としていたガソリン補助金を延長することも問題だ。
 こうした補助制度には既に、総額11兆円を超える予算が充てられた。財政を圧迫するだけではなく脱炭素の流れにも逆行しよう。》
《物価高を克服して、日本経済を強化していくためには、脱炭素やデジタル化、人手不足を解消する省力化といった重要分野に、資金を活用していくことが大切だ。AI(人工知能)・半導体分野へは、30年度までに10兆円以上の支援を行うという。リスクを精査しながら着実に進めてほしい。》

「住民税非課税世帯」の多くは高齢者世帯

 読売の社説は、SNSに投稿される《いちばん嫌いな言葉は「住民税非課税世帯」》《低賃金、低所得で納税している人間は報われず、本当におかしい》《税金納めているのがバカらしい。マジで!》《給付金なんてやらずに消費税を減税すればいいだろう》《非課税世帯へのバラマキはできるのに「103 万円の壁」にはなぜ財源がないと言うのか》などという怨嗟の声を代弁したと言える。
 読売社説にもあるように、住民税の「非課税世帯」というのは、その多くが高齢者世帯である。よって、これをすべて「貧困層」とするには無理がある。なぜなら、所得はなくとも、金融資産が豊富な世帯もあるからだ。
 ところが、行政側は「住民税非課税世帯=低所得層」という前提で物事を進めている。そのほうが選別する手間が省けるからだ。また、住民税非課税世帯というのは、家族の誰の所得も課税ラインに達しないということで、いちがいに貧困世帯とは言えない。
 厚労省の「令和5年国民生活基礎調査」から、住民税非課税世帯に占める割合を世帯主の年代別に分けると、以下のようになる。
29歳以下=4% 
30代=2.7% 
40代=4.1% 
50代=8.3% 
60代=16.6% 
70代=33.8% 
80歳以上=30.4%

コロナ禍以後、ずっと続く巨額補正予算

 住民税非課税世帯のうち、世帯主が60歳以上の世帯が8割以上を占めている、よって、この政府の給付金バラマキは、与党による高齢者層の買収行為に等しい。高齢者ほど選挙に行く。経済対策と称した選挙対策なのである。
 バラマキによって潤うのは、高齢者世帯ばかりではない。バラマキ業務を行う業者には、莫大な手数料、委託料などが入ってくるから、こちらも買収されているのと同じで、バラマキ政党に票が入ることになる。
 コロナ禍のときの支援給付事業を思い出してみるといい。中小企業、飲食店向けの支援や雇用助成、「Go Toトラベル」などの消費喚起政策により、派遣会社、旅行会社、広告代理店などに莫大な額のカネが流れた。
 コロナ禍の2020年度には、補正予算が73兆円、2021年度も36兆円と巨額の経済対策、生活支援対策が組まれた。感染が落ち着いた2022年度になっても、補正予算29兆円が本予算に追加された。
 首相は変わったが、毎回、「思い切った対策が必要」として、税金がバラまかれるのだ。この補正予算の出所は、いうまでもなく国債である。(つづく)


この続きは12月19日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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