共同通信
フィリピンのドゥテルテ前政権が2016年に営業免許を与え、各地で勢いづいた中国人向けオンライン賭博施設で、中国系犯罪集団が中国人らを監禁し、組織的詐欺を強要していた実態が明らかになった。当局の捜査で“閉鎖都市”に君臨する中国系ボスの豪勢な暮らしや地元市長の関与も判明。フィリピン国民に反感が広がっている。(共同通信マニラ支局=佐々木健)
▽ノルマと拷問
北部ルソン島バンバン市。牛が群れる草地の向こうに、30棟以上のビルがそびえたっていた。「仕事のため都市に入ったら、外出は許されない」とバンバン警察署のジェシー・ドミンゴ署長が説明した。塀に囲まれた敷地内に案内されると、飲食店街や運動場が目に入った。外出せずに済むよう診療所もつくられ、監視カメラが至る所に設置されていたという。
7階建てアパートの階段を上り、ロマンス詐欺などに使われたという大部屋を見せてもらった。春節の飾りの下、机から撤去されたモニターが脇にずらりと並んでいる。
「この都市が詐欺のためにつくられたのは確実だ」。大統領府組織犯罪対策委員会のエルネスト・テンデロ氏が断言した。若い中国人らが誘いこまれ、2千人超がシフト制で勤務。「誰かをだます仕事だと知り、働く気を失って一定のノルマの稼ぎを達成できなければ、むち打ちなどで罰せられた」。拷問を受けて逃げ出したベトナム人の告発で当局が2024年3月、人身売買の疑いで強制捜査に入り従業員らを保護した。
▽市長は「中国人」
4階建てのボスの住居には中国風の祭壇が設置され、プールを備え、高級車がずらりと並ぶ。施設の敷地の半分を保有していたのは目と鼻の先にある市庁舎で執務していたアリス・グオ市長。施設運営に関与したと認定され、2024年8月に解任。国外逃亡の末、9月にインドネシアから強制送還され逮捕された。
グオ容疑者は指紋が別名の中国人のものと一致することも発覚。フィリピン国籍と偽装し、選挙で違法に市長になった疑いが持たれている。テンデロ氏は「ここは最大ではない。もっと大規模な施設もある」と強調。各地に点在するオンライン賭博施設について、中国軍の関与を疑う臆測も出ているが「軍との関連性は調査中だ」と述べた。
オンライン賭博施設は前政権下に公式統計で最大約12万人の雇用を生んだ。不動産業や税収への恩恵も大きかったが、マルコス大統領は2024年7月、詐欺や人身売買、殺人の温床だと批判。年末までに営業を停止するよう命じた。