ペットの保護活動団体「The Sato Project 」でボランティア活動に参加する松村けい子さん。セラピードッグとして活躍するハンナは、パピーミル(子犬を劣悪な環境で繁殖させるブリーダー)から来た犬でした。
——ハンナとの出会いは?
ペットファインダー(ペットの里親探しサイト)を見ていたら、「この子は人間嫌いで人間を信用していません」と書かれた、すごくプロフィールの悪い犬が出ていました。パピーミルで生まれ育ったので、人間を極度に恐れていたんです。それを読んだら、私がこの子をなんとかしたいと闘争心にも似た気持ちが芽生えました。ところがこの犬はあなたには無理と2度も断られ、手紙を書いた末やっと引き取ることができました。
自宅に連れて帰るやいなやウンチをしてベッドの下に隠れてしまい、半年間その繰り返しでほとんど姿を見せてくれませんでした。やっと慣れてきて初めて全身を見たら、尻尾が切れていたんです。パピーミルの犬は尻尾をドアに挟んで切られてしまう子も多く、ハンナは後ろから人が来るのを異常に恐れます。叩かれて育ったので手を出しただけで怖がりました。
そんなハンナに生きる目標を持ってほしくて、老人や小児病院を慰問する「セラピードッグ」をさせてみました。殺処分されていたはずの命が生かされたことには意味があると、みんなに知ってもらいたかったんです。
——慰問先でのエピソードは?
人を癒やすのがセラピードッグなのに、ハンナの元気のない様子を見て、病気の老人が「大丈夫?この子はセラピストが必要よ」と逆に心配してくれます(笑)。性的虐待で精神に問題のある子どもの病院でも、ハンナが怯えて逃げてしまうと子どもたちが、「ハンナ頑張って!私も頑張るから」と励ましてくれます。
——ハンナと出会って生活は変わりましたか?
ハンナとの出会いをきっかけにThe Sato Projectでボランティア活動を始めました。そして、たくさんの友達ができました。アダプトしてくれた飼い主さんは口をそろえて「この子と出会えてよかった」と喜んでくれます。そこから感じることは、私たちが犬を幸せにするのではなく、犬が私たちを幸せにしてくれているということです。
——松村さんにとってハンナはどんな存在ですか?
前の子とはラブラブでしたが、ハンナとはそんな関係じゃないですね。無愛想だから癒やされることもないし(笑)。というより、お互いに信用し合う、同志のようなものかな。何があってもこの子は絶対大丈夫、生き抜いてくれるという変な自信と信頼があります。いつもつまらなそうな顔をしているけど、心の底では生きることを楽しんでいる気がします。
【 教えて!シンゴ先生 】
アニマルシェルター/動物病院のヒューメインソサエティー・オブ・ニューヨークで獣医師として活躍する添田晋吾先生にペットの健康について聞きました。
添田晋吾
1995年山口大学農学部獣医学科卒業。2000年に来米し07年に米国獣医師免許を取得。ヒューメインソサエティー・オブ・ニューヨークに勤務する傍ら、東洋と西洋の医学を併用し、老犬のペインコントロールやQOLの向上を目的とした獣医療にも取り組む。
Q犬も花粉症になると聞きました。どのような症状が現れますか?
A花粉が原因で起こる皮膚疾患にはアトピー性皮膚炎があります。
この病気は花粉やハウスダストなどのアレルゲン(アレルギーの原因)、遺伝子疾患、皮膚のバリア機能低下によって引き起こされるといわれています。
症状は激しい痒みで、散歩や食事の途中に体を掻いたり、一晩中体を掻きむしったりします。特に眼の周り、耳、指、腹部に病変が現れることが多く、全身に広がり脱毛を伴うこともあります。花粉が原因の場合は、春から夏にかけてのみ発症するといった季節性がみられるはずです。
ワンちゃんの場合、家庭でできる一番有効な対策は薬用シャンプーで週2〜3回、全身を洗うことです。薬用シャンプーには殺菌、痒み止め、保湿効果があります。重要なのは必ず薬用シャンプーを使い、使用法にのっとり正しく使うことです。
シャンプーができない場合は、散歩後は毎回、濡れたタオルなどで全身を拭き、被毛に付いた花粉を取り除いてください。室内なら、空気洗浄機を使うのも有効です。それでもなお皮膚の状態が改善しない場合は、獣医に診てもらった方が良いでしょう。
アトピー性皮膚炎は二次的な細菌やイースト菌の感染、ホルモン疾患などが複雑に絡み合ったケースが多く、治療に長期間を要する場合があります。また病態をコントロールする治療が多く、完治が難しい疾患であることを理解してください。