第1回 「胃薬(いぐすり)」 OTC101ファーマシー探訪 with ひぐち先生

higuchisensei日本の薬剤師・薬学博士で、現在コロンビア大学で博士研究員をする樋口聖先生による「米国市販薬(OTC)講座」。胃腸薬や鎮痛剤など、毎回テーマを絞り、OTCの種類や、安全な選び方を教わる。先生自身まだ在米2年。米国のOTCには驚かされることもしばしばだという。「一緒にファーマシーを紙面探訪して、賢い消費者になりましょう!」

 

 

第1回 「胃薬(いぐすり)」
〜くすりの仕組みを理解した、上手な胃酸コントロール〜

胃酸は、まずヒスタミンなどが作用し、最終的にプロトンポンプ(Proton Pump)と呼ばれるものが働くことで分泌されます。米国で市販される胃薬の主流はその胃酸を抑えるもので、大きく分けて3タイプあります。それぞれ作用の仕方が異なるので、以下を参考に自分に合ったものを選び、指定の容量を守って服用してください。

①胃酸の中和、即効性を求めるなら
胃酸過多で胸焼けがする、胃もたれがするときに、最も安全で、即効性があるのが「中和型」です。「タムス(Tums)」や「ペプトビスモル(Pepto-Bismol)」「アルカセルツァー(Alka-Seltzer)」などが該当します。タムスは噛んで口の中で溶かしてから飲み込むタイプのもので、フレーバーもいろいろあります。しかも有効成分が炭酸カルシウムなので、カルシウムの補給にもなり一石二鳥。このカルシウムが胃の中で酸を中和してくれるわけです。アルカセルツァーは、水に溶かして飲むものと、噛むタイプとあります。作用はタムスと似ていますが、水に溶かすタイプのものは有効成分に抗酸化剤が2種類とアスピリンが含まれます。ペプトビスモルは、液体、錠剤、噛むタイプがあります。実は日本で未認可の薬なため、僕は服用経験がないのですが、胃壁をコートする成分も含まれているので、胃壁を荒らす鎮痛剤(アドビルなど)と一緒に飲むなら、ペプトビスモルがいいでしょう。
otc_01

②胃酸の分泌を止めたいなら
代表的なものに、「ザンタック(Zantac)」や「ペプシッドAC(Pepcid AC)」などがあります。これらは「H2ブロッカー」という作用機序の薬で、ヒスタミン受容体を阻害して、胃酸生成を止めます。日本でいうと「ガスター10」が該当し、それと全く同じ有効成分(ファモチジン=Famotidine)の薬がペプシッドACです。容量は10mgと20mgがあるので、まずは低い容量から試しましょう。慢性的な胃痛でなければ、③で説明するPPIタイプより、ペプシッドAC などのH2ブロッカーを先に試す方がより安全と言えます。同じ胃酸を抑える薬でも、作用機序の違いにより、PPIタイプは効き目が強い分、副作用などのリスクも高くなるのです。ちなみに、どの薬がH2ブロッカーであるかは、薬の箱やボトルに記された有効成分を見ればすぐに分かります。ペプシッドACのファモチジン、ザンタックのラニチジン(Ranitidine)というように、全て名前の末尾に「〜(ジン)dine」と付きます。
otc_02

③他の薬で効果がないなら(最後の砦に!)
作用として最も強力な部類に入るのが、「プリロセック(Prilosec)」や「ネキシウム(Nexium)」などです。これらはPPI(Proton Pump Inhibitor=プロトンポンプ阻害薬)という作用機序の薬で、読んで字のごとく胃酸を生成するプロトンポンプを阻害することで胃酸分泌を抑えます。このタイプは、日本では処方せんがなければ入手できません。服用には十分注意が必要です。胃の痛みや胸やけが強い人や、他の胃薬で効果が得られにくい人向けですが、かといって予防のために飲み続ける薬ではありません。そのような人は医師の診察を受けてください。アルコール飲料との混合も大変危険です。妊婦、子どもが服用する際は、必ず医師に相談してください。PPIも、有効成分を見ればすぐにそれと分かります。例えば、プリロセックの有効成分はオメプラゾール(Omeprazole)、ネキシウムはエソメプラゾール(Esomeprazole)というように、名前の末尾に「〜ゾール(zole)」と付きます。
otc_03

※基礎疾患がある人は、市販薬であっても服用時に主治医または薬局の薬剤師に相談を。

知っておきたいファーマシー用語
OTC(Over The Counter)Drug
=一般用医薬品(俗にいう市販薬)。処方せんがなくても薬局で買える薬。
Active Ingredient=有効成分(薬効を示す物質)。薬の箱の裏に明記されている。

樋口聖 Sei Higuchi, Ph.D. 
博士(薬学)、薬剤師(日本の免許)。城西大学大学院・薬学研究科修士課程修了、福岡大学大学院・薬学研究科博士課程修了後、京都大学医学部博士研究員。2015年からコロンビア大学博士研究員として、糖尿病の研究に従事。