元気の道しるべ Story 1
病気になって初めて気づくこと、始めた習慣、出会えた人。
病気をプラスに捉えたら、人生が違って見えてくる。焦らず慌てず生きましょう。
人間本来の生体機能を蘇らせる、
体に寄り添う食事を届けたい。
【 末期がんで余命宣告 】 高遠智子さん(48)
東京都港区在住/エッセイスト、オーガニック薬膳料理研究家
28歳で卵巣がんを発症、余命半年の告知後、抗がん剤と放射線治療を行うが再発。
余命3カ月の宣告を受ける
www.genki-recipe.com/index.html
末期がんから食事療法で生還した自らの体験を記した著書が発行部数30万部のベストセラーとなり、オーガニック薬膳料理教室を通じて元気になるレシピを発信している高遠智子さん。今月には著書の文庫化、今後はエッセイと待望のレシピ本の出版が決まっている。
抑圧された子ども時代
智子さんは3歳のときに生みの母を卵巣がんで亡くし、18歳のときには父を肺がんで亡くした。継母は幼い智子さんにご飯を与えないほどの育児放棄だった。最低限の食事で成長した智子さんは、食べることにネガティブな意識を持っていた。幸い通っていたカトリック学校のシスターの勧めで寮に入り、食や社会に対する考え方が変わっていった、という。
末期の卵巣がんで余命半年宣告
学校を卒業した後、就職でも苦労した。当時の日本は保護者や後見人がいないと就職できず、日系企業は全て不採用。日本に参入したばかりの米国の製薬メーカーに入社したが激務で、不規則な生活が続いた。
「成績を上げるためにがむしゃらに働きました。疲労が極限に達したある日、嫌な感じの腰の痛みに襲われて、得意先のドクターに診てもらうと、『すぐにMRIをしましょう』と言われました。その当時、がん告知は主流ではなかったけれど、私に家族がいないことを知っていたドクターは、『卵巣がんのステージⅢの4、余命半年』と。頭をハンマーで殴られたような感覚でした」
会社の理解もあり、すぐさま入院。検査を受けて、その週のうちに手術を受けた。右側の卵巣の腫瘍はかなり進行しており、左側の卵巣の3分の2もがん化していた。がん細胞は一部、子宮とリンパ節にも転移。手術後は抗がん剤と放射線治療をしたが、肝臓、腎臓、膵臓、乳房に転移。それでも仕事を続けながら何とか過ごしていた。しかし、抗がん剤の影響で肌は真っ黒に、俗に「がんシミ」と呼ばれるシミができ、おでこや顔のまわりには湿疹が出て、絶えず乾燥に悩まされた。まゆげやまつげも抜け落ちた。
死への準備
抗がん剤の副作用に苦しみながら3年経ったころ、肺に5センチ大の腫瘍が見つかった。死を覚悟した。
「末期の肺がんと宣告されて3カ月後に父を亡くしていた私は、肺に転移したら治療を即、やめると決めていました。建築家だった私の父は美しいものをとても愛していました。父と印象派の画家クロード・モネの生家、ジベルニーの庭園や日本庭園、浮世絵について語り合ったこと、そしてそのときの父の面影が私の宝物。死ぬ前に、現在のモネの家のことを父に報告しようとフランスに行くことを思い立ちました。余命2カ月切っての渡仏です。移動も全て車いすです。それでも、ジべルニーのモネの生家を訪れたときには、ワクワクして、こんなに体調がいいのは何年ぶりだろうと思いました。11月で肌寒く、霧雨が降っていましたが、私の気分は、晴れ渡った青い空のように爽快でした」
帰り道、呼吸困難に襲われた。モンマルトルのマルシェで水の代わりになるものを探してもらい、トマトを手渡された。
「私、トマトが大嫌いだったんです。でも血が出るくらいの咳だったので、思い切って口にしました。ひと口目は、なんの味もしなかった。ふた口目は違和感があった。三口目には、耳下腺がパカンと開き、唾液と涙がばーっと出てきました。そのとき、『これが人間の生体機能なんだ』って気付いたんです」。しばらく放心状態だった智子さん。「人間は、こうして食べて、唾液を出して、咀嚼をして、代謝をして、血液を末端まで循環させて、活性と再生を繰り返す生き物なんだ。これまでの食生活を反省し、考え方を反省し、生活態度を反省して、素材1つ1つに丁寧に向き合い、食材や食について真剣に勉強したら、もしかしたら私の体は再生するかもしれない」と思った。
再生への道
それから今日まで、智子さんの奇跡のストーリーが続く。フランス滞在中に13ページにもなる手紙を書き、料理学校を訪ね、手渡した。末期がん患者にはとても無理と3度断られたが、4度目に条件付きで入学を認められ、4年間通った。その後は、中国で漢方と薬膳の勉強もした。試行錯誤を繰り返し、自分の体を「サンプル代わり」に、体に寄り添う食事を作り続けてきた。そして生まれたのが、西洋と東洋の自然食理論を基に、人間本来の生体機能と宇宙の全てとが一体となるように考えられた「オーガニック薬膳料理」だ。
がんと共に生きて21年。体調に波はあるが日々の暮らしの中で気付きも多いという。「自己犠牲はやめる。楽しいと思うことだけに集中する。自分の創造性を信じることが大切。最近、思い切って人間関係の断捨離をしたら、3冊目の出版のお話がきたのよ。がんは自分の体が作るもの。日々のライフスタイルも自分で創るもの。自分の心のもち方こそが最も大切。私たち人間は、自由自在に生きることができるのだから」
高遠さんのレシピ(囲みで)
NY風薬膳モンブラン
【材料/下ごしらえ】
*クリーム
サツマイモ1本:一口大の輪切りにし、蒸して皮をむいておく
サフラン2花:大さじ1の水で戻す
ブイヨン10cc
塩ひとつまみ
ハチミツ小さじ1
*エビのバター炒め
エビ:背ワタを取って白ワイン大さじ1でもみ洗い、細かく切る
セロリ:みじん切りにする
マッシュルーム4個:薄切りにする
塩少々
発酵バター小さじ1
エダマメ4つ:茹でてさやから出しておく
ブイヨン10cc
*りんごのカラメルソテー
リンゴ:5ミリ幅の輪切り2枚
発酵バター30cc
塩ひとつまみ
ブイヨン10cc
*飾り
ミント1枚
レモンの皮:すりおろす(小さじ約3分の1)
【下ごしらえ】
フライパンにリンゴを並べブイヨンを注ぎ、塩をひとつまみ入れて、両面がカラメル状になるまでじっくり蒸し焼きにし、平たい皿にのせておく(これが薬膳モンブランの土台の一番下になる)。
【作り方】
①(クリーム)皮をむいたサツマイモを鍋に入れ、ブイヨンとサフランを加えゆっくりペースト状にする②しんなりしたら、火を止めて塩ひとつまみとはちみつを入れ、よく混ぜ合わせる(モンブランクリームの完成)③(エビ)鍋にマッシュルームと塩ひとつまみを入れ、弱火で乾煎りして水分を飛ばす④セロリを入れ、さらに塩をひとつまみし、しんなりしたら発酵バターを入れ、エビを浸けておいたワインを入れてさらに炒める⑤エダマメを加え、ブイヨンを入れてしっとりさせる⑥リンゴを並べた皿に⑤を並べ、上からクリームを乗せてお化粧筋をつけ、ミントをあしらいレモンの皮をふる。
*次回は10月13日(金)号に掲載します。
高遠さんの元気の道しるべ
❶ 自分にも相手にも正直でいる
❷ 朝晩、岩塩と重曹を入れたお風呂に入り、白湯を飲む
❸ 朝晩1つ、ワクワクできることを考える
取材・文/渡辺奈月 ヘルス&ウェルネス・コンシェルジュ。米国でファンクショナルメディスン(機能性医学)を学び、ヘルスリトリートにも多数参加。自らの体験も含め知見を深めながら健康や心のあり方に関する情報を発信し、子どもから高齢者まで健康指導も行う。ブログhttp://gogonatural.weebly.com