スペインを訪れたときの話。
昔から無性にガウディ好きだったぼくにとって、彼の建造物であふれるバルセロナ行きは長い間温めていた夢だった。
そんなある年ようやくチャンスもでき、当時働いていたレストランで夏休みが10日ほど取れたこともあって、この際だからバルセロナだけでなく、スペインの北の方も巡ってみようと計画を立てた。
ヨーロッパの西南イベリア半島の大部分を占める国スペイン。アフリカと隣接するこの国は様々な文化が混ざり合う。そしてラテンの血を引く情熱的なスペイン人は芸術的であり、ピカソ、ミロ、ダリを代表とする偉大なアーティストを数多く生み出してきた。
いちばんの楽しみであるバルセロナは最後にとっておくことにして、ニューヨークから飛び立ったぼくは、最初の行き先としてビルバオを目指した。ビルバオはスペインの北、大西洋側にあたるバスク地方の街。そこにはグッゲンハイム美術館の別館として知られているミュージアムがあり、こちらも訪れてみたいと思っていた。宿泊先の小さなホテルに到着したぼくは長時間のフライトの疲れも忘れ、荷物を降ろすとその足でミュージアムへと向かった。
川沿いの通りをしばらく歩いて行くと、公園の向こうに金属のキラキラした建物が見えてきた。遠くから見てもその独特な光の反射ですぐに分かった。近くまで行くってみると、思ったよりも大きく迫力があり、折り重なった抽象的な曲線の全体像はまるで河川に停泊している巨大な船のようだった。
20世紀の傑作と高く評されたユニークなこのミュージアムは、金属の板を湾曲させて組み合わせたものが建物として成り立っていること自体が不思議に思えた。ただ、それでいてしっくりとこのビルバオの街並に溶け込んでいて違和感を感じさせることはない。圧倒的なユニークさと存在感なのに、どことなく懐かしさがある。まるでキュービズム時代のピカソの絵から飛び出したみたいなこの美しい建造物の反射するきらめきを、ぼくは石畳の川辺に座りながら、長い時間飽きることなく眺めていた。
つづく
Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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