トランプがティラーソンに「時間の無駄」と
北京を訪問中(編集部註:本記事の初出は10月3日)のレックス・ティラーソン国務長官が、北朝鮮との対話ルートがある」「状況は真っ暗と言うわけではない」と述べ、北朝鮮との対話の可能性を「模索している」と明らかにしたと思ったら、なんと、翌日(10月1日)、トランプ大統領が、ティラーソンをツイートで小馬鹿にしてしまった。
トランプのツイートは、あまりに酷(むご)い。「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」(I told Rex Tillerson,
our wonderful Secretary of State, that he is wasting his time trying
to negotiate with Little Rocket Man.)である。わざわざ「素晴らしい国務長官」(wonderful Secretary of State)などと呼ぶ必要がないのにこう言い、さらに交渉は無駄だと切って捨てたのだ。
さらに、「レックス、エネルギーをセーブしろ。われわれはやらなくてはならないことをやるからさ」(Save your energy Rex, we’ll do what has to be done!)とも言っている。
これはどう解釈しても、トランプはもう話し合いはしない。だから、レックス君、もういいよ。あとは、軍事的解決を図るからということだろう。それにしても、大統領と国務長官が、こんな漫才のようなことをやっていて、いいのか? アメリカはとんでもない国になったものだ。
北を攻撃したら国会前で戦争反対デモを?
日本の報道が選挙一色になり、ラスベガスで史上最悪の無差別銃撃事件があったいま、北朝鮮問題をふたたび論じるのは忍びないが、今日は、より具体的に、今後どうなるのかをまとめておきたい。
なぜそうしておきたいかと言うと、日本の報道や識者のコメント、リベラルを自認する政治家などは、なぜ北に核を放棄させなければならないのか?という肝心なことを、まったくわかっていないのではないかと思うからだ。
ここまで事態が緊迫し、時間切れが近づいているというのに、このまま行くと自分たちがどうなるのか、理解したくないないようだ。今回の選挙で「安全保障政策」を希望の党が踏み絵にしたまではいいが、党首・小池百合子はHPから「日本は核武装するという選択肢もあり得る」を密かに削除してしまった。情けないほど愚かだ。自国の安全保障に関して、保守もリベラルも右派も左派も関係ない。少なくともアメリカではそうだ。しかし、日本では議論がまったく噛み合わない。
どうやって安全と平和を確保するか?そのために北の「ロケット小僧」(金正恩)から「おもちゃ」(核)をどうやって取り上げるか?これが議論の出発点なのに、リベラルと左は「話し合い」「外交解決」「戦争反対」の一辺倒で、完全に思考停止だ。
こんなことをやっていて、もし、トランプが北の攻撃に踏み切ったらどうするのか?そのとき、安保法制反対のときと同じように、国会前で「戦争反対デモ」をやるつもりなのだろうか? アメリカの若者たちは、故郷からはるか離れた朝鮮半島まで連れてこられ、そこで命を懸けて戦うというのに、日本の若者はおバカ左翼にそそのかれ、毎日地下鉄で永田町に通って平和デモ?
そんなことはまさか起こらないと思うが、そうなったらさすがのトランプも激怒するだろう。
核容認論はならず者国家には通用しない
では、すでにトランプも共和党も米軍も軍事的解決に傾いているということから見ていきたい。
これは、「リベラルホーク」(リベラルなタカ派)のスーザン・ライス「核容認論」を、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が即座に否定したころから、流れがそちらに傾いたと言える。
スーザン・ライスは、8月10日の「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)紙にて、「先制攻撃は米国民を含む数十万人の死者と世界経済への大打撃を生み出す大惨事につながりかねない。金正恩は悪質だが合理的であり、抑止力を理解している。これは同盟国への核使用や核兵器の流出が北朝鮮の崩壊を招くということを理解しているということだ」と「核容認論」を唱えた。
これに対して、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「ライス氏の主張は間違っている」と強く反論した。マクマスターの主張は、北朝鮮はそもそも一般の国家の理性や合理性に従わない「無法国家」(ロウグネーション)だから、冷戦時代にアメリカとソ連との間に存在したような「伝統的な抑止」は適用できないというのだ。
マクマスターは軍人上がりだから、米国がなんのために戦わなければならないのかを骨身に沁みて知っている。それは「自由」と「人権」、「正義」と「民主主義」のためである。
つまり、彼は北が核を持とうと持つまいと、国民を無視した軍事独裁国家であること自体を、アメリカは容認してはいけないと思っているのだ。
北を破壊するしかないと悟ったトランプ
トランプがアメリカという国家がなぜ世界に存在しているのか?そのことをどう理解しているかはわからない。彼が、世界覇権をどう理解しているかもわからない。ただ、彼もアメリカで生まれ、アメリカで育ったのだから、アメリカ人が「神から与えられた使命」のために生きていることを知っているだろう。
アメリカは神から選ばれた唯一の国家であり、その使命とは「自由」と「人権」、「正義」と「民主主義」を世界の隅々まで行き渡らせることである。そのためなら、軍事力は行使していいのである。なにしろ、正義のポリスマンなのだから。
しかし、トランプは「アメリカファースト」(アメリカ第一主義)を“オハイオ・ギャング”のハーディング第29代大統領からパクリ、アメリカを内向きにし、警察官をやらないことにしてしまった。ワシントンを支配してきたエリートとネオコンが嫌いだからだろう。
しかし、そうは言ってもいられないことに、毎週のようにミサイル遊びをするロケットマンが気づかせた。グアムまで狙えるなどとほざくのだから、本気で「北朝鮮を完全破壊(totally destruction)するほか選択肢はない」と言ったのだ。
これはツイッターでなく、国連本部で言ったのだから、もし北がグアムを狙ったり、米本土を狙ったりしたらそうせざるをえない。それでもなお、なにもしなかったら、この大統領はただの口先男だ。(つづく)
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
この続きは、10月10日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。