2018年の日本経済は順調に景気回復を重ね、バブル崩壊後の失われた年月を一気に取り戻すと言われています。このままいけば、株価は5月には2万5000円代に乗せ、世界経済の拡大とともに、GDPも拡大すると言うのです。
たしかに、これがバブルの再来ならそうなる可能性はあります。バブルは実体に基づかない一種のヒート(熱狂)だからです。これまで、何度も指摘してきましたが、アベノミクスは見せかけだけに過ぎません。その効果が一般層には及ばないうえ、経済全体を歪め続け、やがて取り返しがつかないところまで私たちを連れて行ってしまいかねません。
そこで今回は、すでに綻び始めているアベノミクス・バブルについて述べてみます。日本の中心地、東京・銀座で不動産バブルの崩壊の兆しがあるのです。
株価上昇で「好景気」と言うのはおかしい
年が明けて日経平均は続伸を続けている。これまでクリアできなかった2万3000円代を一気に突破してしまい、このままではすぐにでも2万4000円代も突破しそうだ。なにしろ、NY株価が先に2万4000ドルを軽く突破してしまったのだから、こうなるのは当然だろう。
いまや、メディアも楽観論が支配的だ。新聞や経済誌、週刊誌にいたるまで、「5月には2万5000円代に乗せ、年内に2万8000円までいくだろう」などと、根拠なき予測を展開し、「景気はいい」と口をそろえている。そして、メディアに登場するエコノミストの8割は、日本はバブル崩壊後の失われた年月を取り戻した、景気は回復したと言っている。
本当にどうかしている。なぜ、こうも人間はムードに弱いのだろうか? 1度形成されたムード(今回は楽観論)を疑いもせず、それに乗っかることばかり考えるのだろうか? 投資家は乗っかっていいが、エコノミストまでムードに乗っかってはいけない。これまで何度も書いてきたが、日本の景気は回復などしていないし、経済状況も良くなっていない。とくに、景気に関しては一般層がその恩恵を受けなければ回復したとは言い難い。株価がいくら上がろうと、日本の場合、その恩恵を受けるのは富裕層や投資家、企業に限られるから、それでは景気がいいとは言えないのだ。とくに、日銀マネー、年金マネーなどによる「PKO」(株価維持政策:Price Keeping Operation)によってつくられた相場に、投資家が乗っかっている日本の株式市場をもって、景気を語ること自体がおかしい。
ここで断言しておきたいが、日本の株価は公的資金によるバブルであり、バブルだから必ず弾ける。日銀や年金マネーという買い手がいなくなったとき、いったいどうなるかを考えてみればいい。
再開発により不動産価格がバブル超えに!
株価ばかりではない。日本の場合、ほとんどの数値がアベノミクスによる量的緩和(黒田バズーカ砲)の幻影がもたらしたバブルである。不動産も当然ながら、バブルである。人口減によって実需が減るなかで、不動産が上がると考えるほうがおかしい。それなのに、東京ではこれまで不動産価格の上昇が続いてきた。その中心となったのが銀座である。
2017年の路線価(1月1日時点)日本一は、32年連続で銀座の鳩居堂前となったが、その1平方メートル当たりの価格は、前年より26%アップの4032万円。これは、バブル期のピーク3650万円を突破し、過去最高となった。また、鳩居堂前の路線価は3年連続で2ケタ上昇が続き、2014年からは7割も伸びた。
なぜ、銀座の不動産は、バブル期を超えてしまったのだろうか? これは、量的緩和で潤ったマネーが、2020年の東京オリンピックによる経済効果と外国人観光客の増加というインバウンド効果を見込んだからだ。そのため、ここ1、2年で銀座の再開発によるジェントリフィケーションが一気に進んだ。その代表例が、2017年4月に開業した「GINZA SIX(ギンザシックス)」である。
「GINZA SIX」は、鳩居堂ビルの目と鼻の先の松坂屋跡地を含む2街区に建設され、銀座エリアの商業施設としては最大規模となった。そのため、周辺でも開業を見越した不動産取引が活発になったのである。「GINZA SIX」ばかりではない。2016年3月には「東急プラザ銀座」、同年9月には「銀座プレイス」、さらに2014年10月30日には2丁目に「キラリトギンザ 」がオープンし、銀座のジェントリフィケーションはいまも続いている。
さらにこの先は、森トラストが2丁目に2020年開業を目指すラグジュアリーホテルを建設し、朝日新聞社が並木通り沿いに開発するビルに、日本初進出のホテルブランド「ハイアット・セントリック」が入る予定だ。
中央通りも裏通りも空室が続出
しかし、このような再開発がもはやピークに達したのではという現象が、昨年末に起こった。それは、「キラリトギンザ」がオープンするにあたって、銀座中央通りに面するスペースが一部埋まらなかったことだ。銀座のある不動産業者に言わせると、「中央通りの路面店に空室が出たことは過去にありません」と言うので、これは驚くべき現象だ。
「中央通りばかりではありません。とくに1、2、3丁目の裏通りは空室が目立ちます。GINZA SIXができて、ディオールなどのブランドショップが持っていかれ、それで観光客の流れが変わったからです。銀座だから、裏通りといっても家賃は高いので、客足が遠のけば退出するテナントも出ます。それに、中国人の爆買いも終わり、高級品も売れなくなっています」
そこで、銀座の空室状況を調べてみると、年末に空室が出ていたところがいくつもあった。並木通りの「並木館」「コイズミビル」、6丁目の「不二家ビル」、4丁目松屋通りの「銀座橋ビル」などだ。とくに、「不二家ビル」は、昨年11月末にファンドに売却されているので、空室状況は痛いのではなかろうか。不二家は、昨年9月末時点で、この売却を公表し、2017年12月期に譲渡益190億円を特別利益として計上すると発表したが、売却先、譲渡価格は公表しなかった。
そこで、「ビジネスジャーナル」が譲渡益の190億円で計算したところ、土地面積は297平方メートルなので、1平方メートル当たり6397万円となった。これは、鳩居堂前の路線価4032万円を6割近くも上回り、坪単価にして2億円をはるかに超えていた。「坪単価2億円なら、間違いなく記録です。まさにバブルとしか言いようがありません。ここまで来れば、もう今後取引は成立しないのでは」と、前出の不動産業者は言った。
(つづく)
この続きは、1月29日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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