連載46 山田順の「週刊:未来地図」なぜ若者は海外に出ないのか?その本当の理由(中)出国税1000円でなにが起こるのか?

20代の海外旅行者数はピーク時の3分の2

 若者の「海外離れ」は、数字にはっきり表れている。2016年の総務省『社会生活基本調査』によると、過去1年間に海外観光旅行をした国民の割合は7.2%、およそ14人に1人である。これはピーク時の1996年が10.4%だったから、かなりの減り方だ。この減り方を上回るのが、20代前半の若者の海外旅行経験率で、1996年の16.4%から12.9%に下がっている。
 次に、日本政府観光局の『日本人出国者数』統計を見ると、出国者数は1964年の海外渡航自由化以来一貫して増え続け、 1980年には309万人だったのが1990年には1099万人と初めて1000万人を超え、1999年には1780万人に達している。
 しかし、ここまでは右肩上がりだったが、その後は減少と増加を繰り返し、2012年に1850万人とピークに達した後はまた減少し、ここ2年間はまた増えて、昨年の2017年は1789万人となっている。
 ところが、これを若者に限って見ると、20代の海外旅行者は1996年に約460万人とピークに達した後は、一貫して減り続け、2012年にはピーク時の約3分の2の約300万人にまで落ち込んでしまっている。とくに減少がはなはだしいのが、若い男性だ。若い女性が最近ではむしろ持ち直していて、前記した海外旅行経験率が約28%あるのに対し、その半分の約14%に過ぎないのである。
 いくら少子化で若者人口そのものが減ってきたとはいえ、この減少ぶりは異常ではないだろうか?

若者たちの“内向き志向”を批判する識者

 もちろん、こうした若者の海外離れに対し国も旅行業界も憂いて、若者に対して啓蒙活動を行っている。
 観光庁は、2013年2月から旅の素晴らしさをテーマとする出前授業「若旅授業」を実施しており、海外経験の豊富な有識者らを講師に招き、高校や大学などで昨年12月までに54回開催した。そうして年明け早々に、官庁が得意とする「有識者会議」を設置し、海外旅行推進策の検討を開始した。この有識者会議は、今年度中に具体案をまとめるという。日本旅行業協会(JATA)も、旅のプロや学生団体のリーダーを講師にして、全国の高校などで若者の旅意識を高める「若旅★授業」を実施している。
 しかし、今回の出国税新設は、どう考えてもこうした海外旅行推進事業とは真逆の政策で、若者の海外離れをますます促進させるだろう。もう決まったことなので、これ以上批判しても仕方ないが、若者の海外離れに関しては、その原因をきちんと把握しておく必要がある。次の時代は、若者たちがつくる。その若者たちが、“内向き”では困るからだ。島国の日本では、ただでさえ視野が狭くなる。
 昔から「かわいい子には旅をさせよ」と言われ、それを信じている旧世代の大人たちは、現在の若者の「海外離れ」を大いに嘆く。とくに多くの識者は、自分たちの時代には「なんでも見てやろう」と海外に出ていったことを引き合いに出して、いまの若者たちの“内向き志向”を批判する。つまり、若者たちが海外に出なくなったのを、意識の問題、あるいは時代の風潮と捉えている。はたして、これは本当なのだろうか?

海外が「憧れ」と「ステイタス」だった時代

 ここ20年間ほどで、若者たちの意識が大きく変わったのは確かである。1970年代に20代を過ごした私にとって、海外に出ることは憧れであり、夢の実現に直結していた。ところが、いまの20代は海外に対しての憧れはほとんどない。
 私は出版界に入ったので、とくに海外、といってもアメリカ志向が強かった。周囲のライター、カメラマン、デザイナーなどもみな同じで、「本場のニューヨークで勉強したい」「ウエストコーストの風に吹かれなければなにも語れない」などと、毎年、何人もの知り合いがアメリカに飛び出していった。また、そこまで明確な意思がない人間は、「なんでも見てやろう」と“自分探し”の旅に出て、アジアを皮切りに世界中をバックパックして歩いていた。
 1980年代からは、一般のサラリーマン、OL、そしてファミリーも積極的に海外旅行に出かけるようになった。日本はバブルで空前の好景気だったから、海外旅行に行かないと周囲にバカにされた。人々は競ってハワイ、グアムを手始めに世界各地に出かけるようになった。海外留学(といっても語学留学が中心)も盛んだった。
 潮目が変わったのは1990年代になり、デフレ不況が続くようになってからだ。大人たちのライフスタイルに大きな変化はなかったが、若者たちは違った。海外旅行がステイタスではなくなり、自分が住んでいる街を大事にする“地元愛”が尊ばれるようになった。「今回は○○へ行ってきた」などという海外探訪派は、「それがなに」とバカにされるようになり、地元の祭りや仲間との交流のほうが海外旅行より上にくるようになった。
(つづく)

この続きは、2月13日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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