米連邦法は障害をもつ子どもが公教育を受ける権利を保障し、差別を禁止している。柱となるのはスペシャルエデュケーション(特別支援教育)におけるIEP(Individual Education Program)と、それ以外の児童・生徒への504プランだ。前回(2017年12月号)のIEPの説明に引き続き、今回は504プランについて説明する
IEPと504プランの違い
IEPと504プランの基本的な違いは、その基になる法律だ。IEPが教育法に基づく障害を持つ生徒への特別支援教育を定めたものであるのに対し、504プランは「Section 504 of the Rehabilitation Act」と呼ばれる、Civil Rights=公民権に基づく障害による差別禁止法だ。
IEPは特定の13のカテゴリーの診断名(前号参照)がついている生徒に対し、エバリュエーション(査定)を経て、必要と判断された生徒それぞれにカスタマイズされた支援を提供するプログラムを指す。
支援内容は、加配、学内でのセラピー、カウンセリング、クラス編成の配慮、特別支援学校への通学、施設や病院での教育など生徒の症状により多岐にわたる。
しかしながら、診断名がついても特別支援が必要とされない生徒もいる。例えば、アスペルガーや、ADHD/ADD(注意欠陥多動障害
など)でも、セラピーや加配なしで一般クラスでの学校生活を送れる場合もある。また、不安症(Anxiety)をはじめ、学力に問題はないが情緒的な問題や身体症状から日常的に学校生活に不安や難しさを抱えるなど、スペシャルエデュケーションの枠に入らないが、一般クラスでの学校生活にサポートが必要な生徒もいる。504プランはそのような生徒へのサポートをするものである。
2つめの違いは、IEPには支援を得ながら一般クラスの生徒と同じ学業や活動を行うアコモデーション(配慮)と、学ぶ教材を変更したり、活動を短縮・減少したりすることで、各自に合った学業の進め方を行うモデレーション(修正)があるが、504プランでの支援内容はアコモデーションのみだということだ(左上の表参照)。
要約すると、504プランは、スペシャルエデュケーション枠に入らない生徒が、一般クラスに在籍しながら、一般の生徒と同様のカリキュラムを受けるためのアコモデーション(配慮)を得るためのプランであり、スペシャルエデュケーションと同様、生徒の学力に対しての評価は、一般生徒と同等になされ、生徒への能力の期待値がサービスを受けることで下がることはない。
504プランの内容
配慮の内容は、健康管理に関するヘルス/メディカルアコモデーションと、学業に関するエデュケーショナルアコモデーションに分けられる。
ヘルス/メディカルの分野は校内でのアレルギーや糖尿病への対処、投薬、痰の吸引などの医療措置の実施やサポートが主になる。
エデュケーショナルの分野ではテスト時の配慮(Testing accommodation)と、授業中の配慮(Classroom / Curriculum accommodation)がある。テストは、日本で小テストに当たるクイズを除くフルタイムのテスト時間の延長や、少人数の教室でテストを実施することで、緊張や集中力の問題を軽減し、本来の学力を発揮できるようにする。
授業中の配慮としては、 席順の配慮、補助的なテクノロジー機器の使用、宿題提出期限の延長などがある。その他、必要に応じて適宜認められる事柄もあるなど、ケース・バイ・ケースで柔軟な対応が可能だ。
504プランの取得手続き
発達障害の診断がつかないグレーゾーンの生徒も対象になるため、504プランの取得はIEPと比較してプロセスがシンプルだ。IEPを持つ生徒は自動的に504もカバーするため、重複して持つ必要はない。
保護者は、504申請書に記入して学校の504コーディネーター(主にスクール・ソーシャル・ワーカーや、スクールサイコロジスト)に提出する。申請書は各教育局のウェブサイトからダウンロードできる。または学校からリクエストフォームのリンクか用紙をもらう。
申請書は、リクエストフォーム、メディカルレビュー、ヘルスレコードのリリースフォームから成る。メディカルフォームは専門家の診断名は必須ではないが、小児科医や相談しているカウンセラーから、問題点と必要な配慮を記入してもらう。申請しても必ず504プランが認められるわけではないので、説得力のある材料を保護者側が用意する姿勢は大切だ。
学校側から504プランを勧められる場合もあるが、保護者の同意なしには申請できないので、「ノー」と言うことも可能である。
504プランのリニューアル申請は1年ごと、査定は毎年
特別支援教育と同じく、504プランは 精神的、身体的にサポートの必要な部分を補い、生徒本来の学力を発揮させるためのものなので、子どもにとってベネフィットになり、支援を受けることで将来の進学などに不利益に働くことはない。むしろ必要な支援を受けない方が不利益になるというのが、米国公教育の基本的な考え方だ。次回は504テストアコモデーションを例に説明する。
(文・河原その子)