Jayシェフ もう一度ニッポン〜20年ぶりの日本の生活〜 第1回 ニッポン人一年生 ①

ニッポン人一年生 ①

イラスト Jay

イラスト Jay

「○○ホテルはどこですか?」
 3時間ほど出発の遅れたニューヨークJFK発のフライトが羽田空港に着いたのは夜の10時過ぎ。意外に混雑している税関や手荷物の郵送などの手続きに時間がかかり、空港から出たのは11時を回っていた。
 ようやく雑踏を抜けモノレールの駅まで来ると人もまばらになり、車内に入ると空いた席に腰を下ろしほっとして、ホテルの最寄り駅を待った。チャイニーズの母娘だろうか、楽しげに話す声が聞こえてきた。このモノレールに乗るのは今日で2回目。子供のころ八丈島へ家族旅行したとき、羽田への往復で乗った記憶がかすかに残っている。
 あれから幾つもの星を重ね、つい数カ月前に決まった日本への急な帰国。その慌ただしさは想像を超えた。事務的な処理を始め、目算2トンにもなる諸々の家財道具の始末、日本への引っ越しの準備、そしてコンドミニアムの売却。長年住んでいたニューヨークを離れるというのは人生の大転換。ストレスと肉体的な疲労の末、ようやく延びに延びた帰国のフライトとなった。日本に住むのは20年以上ぶりになる。ほとんど外国人だ。
「○○ホテルはどこですか?」
夜更けに到着した駅の改札口を出る際駅員に尋ねると、
「あちらの階段を降りると道順が書いてあります」
と答えられた。言われた通り階段を降りて道路に出たのはよいのだが、なぜだかその辺りが暗くてどこに道順が書かれているのか分からない。あいにく周りを見渡しても誰もいなかった。
「どうなってんの?」
この近くにあるはずなのだが、なにせ日本ではまだネット回線が使えないのでマップを使うことができない。今回は荷物も多く夜の到着ということもあり、大事をとって旅行会社を通し羽田からアクセスの良いホテルをわざわざ選んだというのに。じっとしていてもらちがあかないので適当に歩いてみると、すぐにホテルのサインが目に入った。
「あ、あった」
なんて事はない、隣のビルの死角になって見えなかっただけだ。ここまでくれば!暗闇に浮かぶロビーのやたらと明るい照明が日本らしい。ただアメリカの薄暗い灯りに慣れたぼくには少し眩し過ぎるように感じてしまう。
「いらっしゃいませ」
「予約した○○ですが」
やっと温かいシャワーだ。
「はい、喫煙室でお取りしています」
「キツエン?」
「はいキツエンシツです」
キツエン…
「それってスモーキング?」

asanuma01
Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理シェフなどの経験を活かし「食と健康の未来」を追求しながら「食と文化のつながり」を探求する。2018年にニューヨークから日本へ拠点を移す。