摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載41) カイロプラクティック治療 【10回シリーズ、その8】姿勢

column7-2

ジョンJ. ベルモンテ John J. Belmonte D.C., P.C.
コートランドニューヨーク州立大学レクリエーションセラピー学位取得後、身体障害者セラピーに従事。1991年ニューヨークカイロプラクティック大学卒業。インターナショナル・アカデミー・オブ・クリニカル・アーキュパンクチャー修了。PGA(全米プロゴルフ協会)の医療チームメンバー。1995年、カイロプラクティッククリニック「E53 Chiropractic & Wellness Studio」を開業。

Q正しい姿勢を保つことは、なぜ大切なのですか?
A「正しい姿勢を保てる」ということは、骨格を正しい位置に保つために必要な筋肉がきちんと働いているということです。姿勢が崩れていると、筋肉も弱まり、体のバランスが崩れ、骨だけでなく内臓に与えるストレスも増します。正しい姿勢は体のゆがみを予防し、健康を維持し、集中力を高める役割を担っています。小さいころから正しい姿勢を習慣付けることは非常に大切ですが、大人になってからでも決して遅くありません。

Q基本となる心構えは?
A同じ姿勢を長時間取り続けないことです。人間はずっと同じ姿勢でいることはできません。最初は正しい姿勢で座ったとしても、それを何時間も続けることは不可能です。ですから45分ごとに3分から5分間、体を動かすのが理想ですね。現代は生活習慣が大きく変化し、25年前なら体を動かして行っていたこともだんだん減ってきています。特にデスクワークではコンピューターで何でもできてしまうので、8時間動かずに済んでしまうこともあります。デスクワーク中は、定期的に立ったり少し動き回ったりするだけで、体への負担は大きく減ります。

Qどのような職業の人が特に注意したらよいでしょう?
Aデスクワークやネイリストなど同じ姿勢をとり続ける仕事、またヘアスタイリストなど一見動き回っているように見えますが、腕を常に上げているなど同じ動作、いわゆる無理な姿勢や体勢を長時間続ける仕事をしている人は気をつけましょう。テレビゲームやスマートフォンの画面を見続ける、コントローラーを操作し続けるという姿勢は言うまでもないことです。これについては、体が発達途上にある子どもたちにとっても大きな問題です。

Qスポーツやジムで体を動かしていれば大丈夫ですか?
A正しい姿勢を保つことと、肉体を鍛えることは別です。スポーツは逆に体の片側しか使わないことの方が多いのです。ジムでのエクササイズは筋力を向上させますが、姿勢を矯正するものではありません。正しい姿勢のために重要なのは、正しい座り方と立ち方を意識して実行することです。

Qでは、正しい座り方を教えてください。
A下の図のように、
(1)お尻が背もたれにぴたりと付くように深く座る
(2)腰と背中はしっかり背もたれに付け、自分の背中全体が背もたれに支えられているかを確認する
(3)両肩はリラックスさせ、胸骨を上に向ける(前かがみにならない)
(4)耳と肩の真ん中を結ぶ線が、地面に対して垂直になるようにする
(5)足裏を全面、床に付ける(椅子の高さを調整する)
背中はS字にカーブしていますので、背もたれとの空間を埋めるために、サポート用のクッションを置くか、タオルを巻いて使用するのも良いでしょう。

Print

Qコンピューターのモニターの位置も重要ですね。
Aはい。説明した姿勢で目線がまっすぐに届く先に画面が来るように高さを調節します。ラップトップコンピューターでは画面の高さの調節は難しいですが、長時間使用しないように気をつければ大丈夫でしょう。私はデスクトップ用の、モニターの高さを調節できる台(standing desk=スタンディングデスク)を使用しています。この台を使うことで、座ったり立ったり体の位置を変えながらデスクワークを行うことができます。座りっぱなしで疲れたら立って仕事をするという、「デスクワークは座るものだ」という意識の変換で、姿勢のためには大変良いことです。これはエルゴノミクス(ergonomics)という考え方です。

Qエルゴノミクスとは?
Aエルゴノミクスは人間工学の考え方で、生活や仕事場の空間と体の関係を研究するものです。この研究と考え方を取り入れて、人間が正しい姿勢と動きを保てるような、家庭や仕事場での家具や道具の開発がされています。正しい姿勢を保つこと、体の正しい動きを尊重することが生活や仕事の効率にいかに好影響を及ぼすかが今、真剣に考えられ始めているのです。カイロプラクティック医が会社に訪問し、仕事環境での適切な体の使い方、座り方の指導「エゴノミクスワークショップ」を開催することもあります。

Q立ち方で気をつけることはありますか?
A猫背や、首が前に出てしまった姿勢はもちろん、胸を真っ直ぐに張ってもお腹が前に出て、腰がアーチ状なるのも良くありません。胸の真ん中の胸骨にペンを垂直に当てて、立ってみてください。ペン先が少し上向きになるのがちょうど良い位置です。

Q正しい姿勢を保つ筋肉はどうやって鍛えたらよいのでしょう?
A自分で気がついて、まっすぐに立とう、座ろうとして姿勢を正す動作になるということは、既に姿勢を保つ筋肉を使っていない、もしくはそれらの筋肉が弱まっているということです。そのような体の使い方が習慣になっている証拠です。
 姿勢維持に欠かせない脊柱起立筋(erector muscle of spine)は悪い姿勢が続くと簡単に弱まります。しかしエクササイズやストレッチを習慣化することで強くすることができます。セラピーボール(exercise ball / physio ball)に座ると良いのは、バランスを取るために体幹を使い鍛えるからです。ヨガは体の柔軟性を、ピラティスは筋肉を伸ばす訓練になります。これら1つだけでは偏ります。カイロプラクティックでの背骨のチェックとそれらのエクササイズの組み合わせでより効果的に正しい姿勢を取り戻すことが可能です。これは幼少期の子どもにとっても重要なことです。特に大人と違って、子どもの体は発達途上にあるためその重要性は大人の比ではありません。