連載75 山田順の「週刊:未来地図」米中対決時代(2)(中)フェイスブック・ショックが暗示する「暗澹たる未来」

フェイスブックの理念は中国抜きでは実現できない

 じつは、フェイスブックは個人情報の管理に関しては、非常に甘いところがある。そうした姿勢が表れているのが、ザッカーバーグCEOの中国に対する発言だ。彼は常々「世界をよりオープンに、より繋げることは、中国抜きでは実現できない」と言ってきた。
 ザッカーバーグCEOは、フェイスブックのミッションを次のように定義して、株主に伝えている。
 《Facebook was not originally created to be a company. It was built to accomplish a social mission- to make the world more open and connected》(フェイスブックは元々会社になることを目的としてつくられたのではありません。世界をもっとオープンにし、繋がりを強めるというソーシャルミッションを達成するためにつくられました)
 この理念は、いわば一種の理想である。ザッカーバーグCEOは「コミュニティ」という言葉が好きで、フェイスブックを全世界の人間が自由に参加できるコミュニティにしたいのである。
 しかし、そんなことをしたらどうなるか? この点に関しては明確に答えたことはない。
 誰もが知るように、中国はネットにも国境を築き、インターネットフリーダムを認めていない。フェイスブックやグーグルは「グレート・ファイア・ウォール」(GFW:ネットの万里の長城)と呼ばれる規制により、アクセスが遮断されている。フェイスブックは2009年から、中国ではアクセスが遮断されている。
 しかし、フェイスブックは中国市場でのサービス再開を目指し、昨年から中国政府に積極的に擦り寄ってきた。たとえば、昨年の12月に中国で行われた「世界インターネット大会」で、中国政府がネット規制を強化する方針を表明したのに対し、フェイスブックのバイスプレジデント、ボーガン・スミスは「私はデータ利用における指導力という面で中国を称賛したい」と語り、中国のネット管理システムを「いい仕事をしている」と持ち上げたのである。

アメリカは歴史的に見て中国には甘い

 中国の“ネット恐怖社会”(監視社会)に関しては、この連載で稿を改めて書くが、中国ではネットは常に監視されている。アクセスすれば、個人情報は政府に筒抜けである。しかも、最近の中国では、ほとんどのネットサービスは実名登録となった。電子決済の「微信支付」(ウィーチャットペイ)も「支付宝」(アリペイ)も実名登録であり、ネット銀行、ECサイトなどもみな実名登録しなければ使えない。
 こんな国で、しかも北京政府が人民をいくらでもコントロールできる国で、「世界をもっとオープンにして繋げる」なんてことをしたら、なにが起こるかは明白ではなかろうか?
 歴史的に、アメリカ人はお人好しで、中国に対しては本当に甘いところがある。中国の本質を理解していない。
 中国に毛沢東の共産党政権を誕生させたのは、太平洋戦争後、アメリカが蒋介石国民党への援助をやめてしまったからである。それ以前、ルーズベルトが蒋介石を徹底的に援助したのは、日本の大陸における利権拡大を阻止するためもあったが、中国人に同情していたからである。ルーズベルトは白人らしく、中国人を欧米列強に翻弄された哀れな人々と、上から目線で見下していて、王様が乞食に施しをするように援助を与えたのである。
 「中国の赤い星」(Red Star over China)を書いたジャーナリストのエドガー・スノーなどは、徹底的に共産主義思想に洗脳されていた。中国人は欧米人の同情を買うのがじつにうまい。つまり、スノーは毛沢東たちに騙されていたのである。驚くべきことに、ニクソン大統領もクリントン大統領もスノーの著作を読んで訪中している。
 しかし、スノー自身は晩年、「中国の赤い星」を書いたことを後悔していると妻に語っていた。
 ザッカーバーグCEOの夫人は、中国系のベトナム移民である。ならば、もう少し中国と中国の歴史、とくに中国政府に関して学ぶべきだろう。
(つづく)

 
 
column1

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com