連載77 山田順の「週刊:未来地図」「健康食品」で「不健康」になる(上) 「健康志向人間」のほうが早死にするという不思議

 最近、テレビでやたらに目につくのが「健康食品」のCM。青汁、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチンなどの名前を聞かない日はない。実際、健康食品は売れに売れている。私の周囲でも、これらの健康食品を摂取し、「これは本当に身体にいい」と勧めてくる人間がいる。
 しかし、たとえば毎日、青汁を欠かさず飲用しても、それだけで健康になれるわけではない。健康食品は、単に健康を害さない食品で、健康になれる食品ではないのだ。

なぜ、約1兆5600億円市場ができたのか?

 調査・マーケティングサービス会社「インテージ」の「健康食品・サプリメント+ヘルスケアフーズ 市場実態把握レポート2017年度版」によれば、2017年の健康食品・サプリメント市場規模(推計)は、なんと1兆5624億円に達している。利用者数は5644万人で、1人当たりの年間平均購入金額は2万7665円である。
 私の周囲にも、この巨大市場を支えている人間がいて、毎日、欠かさず青汁を飲んでいる。また、1つでは飽き足らず、グルコサミン、コンドロイチン、黒酢など、何種類もの健康食品を摂取している人間もいる。もちろん、私はいっさい摂取していない。かつて週刊誌の編集者だったとき、この業界を取材したり、また、健康食品会社と組んでタイアップ記事をやったりしたので、内幕を知っているからだ。ひと言で言うと、これほどいい加減な業界はない。健康食品と言ってはいるが、単に摂取しても健康を害さないだけで、その効果は彼らが宣伝する100分の1もないと思っていい。
 それなのになぜ、こんな巨大な市場ができてしまったのだろうか? 最大の原因は、日本が高齢社会になったことだが、もう1つは、垂れ流される情報を人々が信じやすいということだ。ただ、最近の大ブームの直接の原因は、2015年春に、「機能性表示食品制度」が始まったことによる。

新制度発足わずか3年で健康食品が激増

 「機能性表示食品制度」というのは、たとえれば、健康食品の“規制緩和”である。なぜなら、この制度により、メーカーが科学的根拠を国に届けるだけで、健康効果をパッケージに表示できるようになったからだ。その結果、新製品が次々に発売され、機能性表示食品の品目数は、制度開始から3年足らずで1200を突破し、従来の健康食品の代表である「特定保健用食品(トクホ)」を圧倒的に上回るようになった。
 ひと口に健康食品と言っても、いくつかの種類がある。法的には健康食品という言葉はないが、一般的に「健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの」を総称して健康食品と呼ばれている。
 こうした健康食品のうち、国がその「健康の保持増進効果」を確認したものが「保健機能食品制度」で、保健機能食品には、前記した「特定保健用食品(略称:トクホ)」と「栄養機能食品」の2種類がある。トクホは、健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいているかどうかを国が審査し、そのうえで認可される。認可されると、たとえば「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可される。そして、トクホのパッケージには、国が認可した証明として「トクホマーク」が付けられる。
 一方の栄養機能食品 は、ビタミンやミネラルなど17種の栄養成分が対象で、含有量などで国の規格基準を満たせばよく、とくに審査や届け出は必要ない。表示は「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」などで、あらかじめ決められた表現だけが使えることになっている。
 こうしたこの2つの分類の健康食品に、2015年から加わったのが、機能性表示食品というわけだ。

国の審査なしで「機能」を表示できる

 機能性表示食品に関して、消費者庁のHPの「機能性表示食品って何?」は、こう記している。
 《そこで、機能性を分かりやすく表示した商品の選択肢を増やし、消費者の皆さんがそうした商品の正しい情報を得て選択できるよう、平成27年4月に、新しく「機能性表示食品」制度がはじまりました》
 「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」など、特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)という食品の機能性を表示することができる食品です》

 つまり、「機能性」というのは、「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」などのことを指し、これをメーカーがわかりやすく示せばいいというわけだ。
 トクホの場合は、その食品の有効性や安全性をテストする必要がある。そのため、メーカーは臨床試験に多額の資金を投じて開発し、国に申請する。これを受けて国は審査を行って販売許可を下すわけだが、許可が出るまでにはだいたい2年かかる。しかし、機能性表示食品は、業者が販売の60日前までに、科学的根拠を示す論文などを添えて消費者庁に届け出れば、国の審査なしに、その「機能=効果」を表示できる。つまり、トクホなどよりずっとハードルが低いわけで、その結果、続々と新製品が出て、その数1200を超えてしまったのである。

信じるか信じないか「自己責任」の世界

 これだけの数の商品があると、その「機能」を検証することも難しいが、それ以前に、製品にうたわれた機能が本当であるかどうかが非常に疑わしいということになる。なにしろ、第3者が検証しているわけではなく、メーカーが勝手にうたっているだけ。それを国が“追認した”ということになっているだけだからだ。
 じつは、ここまで述べた2つの健康食品(特定保健用食品=トクホ、栄養機能食品)と、この機能性表示食品以外に、一般的に健康食品と呼ばれているものがまだある。それは、「健康補助食品」「栄養補助食品」「栄養強化食品」「栄養調整食品」「健康飲料」「サプリメント」などだが、これらもまた、国がその効果を確認したものではない。
 もちろん、国の認可、いわゆる「お墨付き」が本当に信じられるかどうかはわからない。なぜなら、国の審査といっても厳格ではなく、またメーカー側のロビイングがあるからだ。ただし、薬品の場合はそれなりに厳格な審査があるわけで、健康食品にそれがほぼないというのは、同じような「効果・効能」をうたっていることからすると、ちょっと信じられないことだ。結局、極論で言うと、健康食品というのは健康に害がなければ、それでいいということになる。健康にいいのが健康食品ではないのだ。つまり、健康食品というのは、完全な自己責任の世界ということになる。メーカーの言うことを信じるか信じないかはあなた次第というわけだ。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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