連載83 山田順の「週刊:未来地図」どうなる米朝会談(2) トランプが「譲歩していない」「時間がかかる」と衝撃発言

 トランプ大統領が北朝鮮に対して“大幅譲歩”して、米朝首脳会談を「劇的成功」(?)に導くと、核を容認して朝鮮半島から米軍を撤退させることまで考えられる。実際、この見方は識者の間で、ずっと懸念されてきた。
 この懸念がついに表面化して、4月22日(米国東部時間)に、とうとうトランプが「譲歩していない」「(解決には)時間がかかる」とツイートした。まさに、“自信過剰”で“思慮が足りない”ということを露呈したようなものだ。(編集部註:本記事の初出は24日)

NBCの朝番組が大統領の「譲歩」を批判

 繰り返しになるが、4月20日に北朝鮮が「核実験とICBMの発射実験を中止し核実験場を廃棄する」と発表したことに対して、トランプ大統領は「グッドニューズ」(いい知らせ)と言い、「大きな進展(big progress)だ! 首脳会談が待ち遠しい」とツイートした。
 この言葉を聞けば、誰もが大統領は「ノーテンキ」ではないかと懸念する。なぜなら、これは北の声明を全面的に歓迎することだから、北の核を容認するとも解釈できるからだ。“ロケットマン”金正恩は、「核を放棄する」とは一言も言っていないのである。

 そこで、大統領は北朝鮮に対して譲歩する気なのかということになり、NBCの日曜朝の番組「Sunday Today」でキャスターのチャック・トッドは「金正恩はほんの少ししか譲歩していないのにトランプは大幅に譲歩しているように見える」と、大統領を批判した。
 トランプは、おそらくこのニュース番組を見ていたのだろう。チャックの批判に即座に反応して、こうツイートしたのだ。

 “Sleepy Eyes Chuck Todd of Fake News NBC just stated that we have given up so much in our negotiations with North Korea, and they have given up nothing. Wow, we haven’t given up anything & they have agreed to denuclearization (so great for World), site closure, & no more testing!”
 (フェイクニュース局のNBCの眠たい目のチャック・トッドが、われわれは北朝鮮との交渉で大幅に譲歩しているが向こうはなにも譲歩していないと述べた。まったくもう、われわれはなにも譲歩していないし、向こうは<世界にとってグレートな>非核化と実験停止に同意しているんだぞ)

 要するに、オレは批判されるようなことはなにもしていないと、トランプは言いたかったわけだ。しかし、これを書いて、北朝鮮が本当は譲歩していないことに気がついたのかもしれない。
 次のツイートで、大統領はこう言ったのである。

「結論を得られるまでは長い道のり」だと

 “We are a long way from conclusion on North Korea, maybe things will work out, and maybe they won’t – only time will tell…. But the work I am doing now should have been done a long time ago!”
 (北朝鮮について結論を得られるまでは長い道のりだ。うまくいくかもしれないが、そうならないかもしれない。そいつは時がたたなければわからない。ただ、オレがいまやっている仕事はずっと前にされていなければいけなかったんだぞ)

短気なトランプはNBCが大嫌い

 本当に、どこまでもオレさまである“トランプ節”だが、これを受けてブルームバーグは、淡々とその内容を報道した。その見出しは、「トランプ大統領:北朝鮮問題は“結論には程遠い”」となっていた。ただし、英文記事のほうを見ると、見出しはこうなっていた。
 「Trump Tempers Optimism on North Korea: “Only Time Will Tell”」
 要するに、トランプはあまりに楽観的で、「時間だけがものを言う」ということだ。

 ここで、どうしても付け加えておきたいが、トランプはNBCを徹底的に嫌っている。昨年10月に、トランプは場合によってはNBCの放送免許を取り消すことを示唆したことがある。
 これは、NBCがしつこく、トランプとティラーソン国務長官=当時=の不和を報道したからだった。トランプはツイッターに「NBCとその放送網からフェイクニュースが流れていることを考えると、同社の放送免許の取り消しを考えてもいいのではないか。アメリカにとってもよくないぞ」と書き込んだ。
 NBCがティラーソンが安全保障に関するミーティングで、トランプを「能無し」(moron)と呼んだことをすっぱ抜いたからだ。

 この大統領は、短気で、すぐカッとなる。
 それは、このほど出版されたコミー元FBI長官の暴露本「A Higher Loyalty: Truth, Lies, and Leadership」(より高き忠誠心:真実と嘘とリーダーシップ)でも、あますところなく語られている。
 本当に情けない大統領である。

結局、なにも進展していないのではないか?

 さて、どこをどう読んでも、先日の金正恩の声明は、核兵器を手放す意思などまったくないことを示唆している。
 実際、先の中朝会談では、習近平主席の“お言葉”をメモを取りながら聞いていたというのに、非核化に関しては「段階的かつ歩調を合わせた手段」を主張したという。中国メディアはそう伝えている。
 さらに、今回明らかになったが、イースターウィークエンドに「極秘訪朝」したマイク・ポンペオCIA長官に対しても、「段階的な合意」を譲らなかったという。
 いくつかのアメリカのメディアの報道によると、ロケットマンは、米朝が同時に譲歩していく案を示し、その場合、数年かけて歩み寄るタイムテーブルを提示したのだという。
 ただし、ポンペオ長官とは数回にわたり会食し、大歓迎をしたという。バスケ好き=アメリカ人好きな彼は、アメリカ人と会食できるのがよほど嬉しかったのだろう。

 しかし、それと交渉とはまったくの別問題だ。
 現在もなお、CIAのスタッフが平壌に残り、北朝鮮との“下交渉”を続けているという。金正恩は「降りる気」はまったくないのだ。

 となると、トランプが首脳会談に踏み切った前提条件は、大きく崩れることになる。まさに、トランプの直感は、単なる“慢心”の結果だったということになる。
 もし、そうでないなら、トランプは首脳会談を初めからパフォーマンスでいいと考えていたのかもしれない。トランプは、米朝会談の“落とし所”(settlement)を、「見せかけの非核化」に置いていたのかもしれない。

金正恩のほうからはキャンセルできない

 当然だが、アメリカ側の最低条件は、首脳会談で核の放棄が宣言されることであり、そのために「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」(CVID)が実行されることだ。
 つまり、北朝鮮が「リビア方式」をのまない限りは、首脳会談の意味はない。

 トランプ政権は「烏合の衆」であり、トランプは人の言うこと聞かないという“素晴らしい性格”の持ち主である。アドバイザーが「ミスター・プレジデント、北を信じてはいけません。核実験を中止したといっても、そんなものは1日で撤回できます。見返りを与えていけません」と言っても、それを聞く耳を持っていないかもしれない。

 いずれにしても、すべては米朝会談が本当に行われてみなければわからない。はたして行われるのか? 26日(米国時間)に行われた「南北会談」の結果が、大きく左右することは間違いないだろう。
 そこでいま言えることは、いかに状況がよくなかろうと、金正恩のほうからは首脳会談をキャンセルできないということだ。そうすれば、いくらトランプでも彼の体制を保証しないだろう。

「You’re fired!」(お前はクビだ!)は通用しない

 トランプは本当に「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大にする)気があるのだろうか? そして、日米同盟により、「アメリカは日本とともにある」を実行する気はあるのだろうか?
 外交交渉はテレビ番組ではない。「You’re fired!」(お前はクビだ!)で終わるわけにはいかないのだ。
(了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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