連載89 山田順の「週刊:未来地図」どうなる米朝会談(3)(下)アメリカと世界が陥った戦争と平和のジレンマ

全面戦争がなくなり北朝鮮、中国は生き残った

 第2次大戦以降、世界から全面戦争はなくなった。そのあまりの悲惨さを、世界中が悟ったからだ。
 しかし、戦争そのものはなくならなかった。1950年に起こった朝鮮戦争は、北朝鮮と中国にとっては、南の政権を倒すための全面戦争だったが、アメリカは限定戦争を選択して、2年後に休戦協定を結んで一時的な停戦に持ち込んでしまった。マッカーサーは満州に原爆を落として北と中国を崩壊させることを主張したが、トルーマンはこれを認めなかった。
 つまり、限定戦争や制限戦争においては、政治家が軍事に介入し、攻撃禁止を命じる。限定的な目的を達成すればいいとするのである。しかも、政治家は戦場の範囲まで指定するので、ロジスティックが破壊されない限り、戦争は終わらなくなった。
 こうしてアメリカの戦争から「勝利」という言葉はなくなった。朝鮮戦争でもベトナム戦争でも、アメリカは勝利を得られず、その結果、共産政権は生き残ったのである。
 歴史にイフ(もしも)はないが、朝鮮戦争でアメリカが限定戦争を選択しなかったら、北朝鮮という国家は存在せず、現在の中国も存在しなかっただろう。
 こうして全面戦争がなくなった世界では、国連を中心として「国際法」が整えられ、戦争はより限定的になった。武力の行使は、基本的には個別的、集団的自衛権の行使以外は許されず、認められるのは、国連憲章第7条下の集団安全保障体制による強制行動だけになった。つまり、北朝鮮のような国際法に違反した国が出た場合は、最終的には安全保障理事会による強制行動によって対処することになった。
 もし、安保理の支持なしで軍事行動を展開した場合、個別的、集団的自衛権の行使以外では国際法上は違法ということになる。となると、アメリカの予防戦争による先制攻撃は、本来は国際法違反である。しかし、前記したように、個別的自衛権のギリギリの範囲内と考えられている。

人道上の理由での武力行使は許される

 とはいえ、安保理を通さなくてもいい武力行使が認められるケースがある。それが「人道介入」(humanitarian intervention)だ。深刻な人道上の危機、たとえば政府による人民弾圧、虐殺などが起こっている場合は、武力介入してそれを阻止していいということだ。
 たとえば、1999年に起きたコソボ紛争での旧ユーゴスラビア(現セルビア)によるアルバニア系コソボ人の弾圧に対し、NATO軍はユーゴ空爆を行ったが、これは人道介入とされ、安保理の事前の決議なしに行われた。
 また、つい最近では、シリア政府軍が化学兵器を使用したとして、米英仏軍がミサイル攻撃を実行したが、これも人道介入のケースといえる。
 シリアへのミサイル攻撃に際して、トランプはこう述べた。
 “We’ll be making some major decisions over the next 24 to 48 hours. We are very concerned when a thing like that can happen. This is about humanity. We’re talking about humanity. And it can’t be allowed to happen.”
 (われわれは、この後24時間ないしは48時間以内に大きな決断をする。このようなことが起こり得ることを非常に危惧している。これは、人道の問題である。われわれは人道の問題を話しているのだ。許されるべきことではない)
 トランプはここで、「人道」(humanity)という言葉を2度も使っている。しかし、化学兵器使用が人道に反し、通常兵器は人道に反しないという根拠はどこにもない。化学兵器の使用が国際法で禁止されているだけである。しかも、常に人道介入を行えるという国家は、この世界に存在しない。
 したがって、人道介入というのは恣意的になる。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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